月ノ下 狸櫻 のブログ

爽やかで前向きな気持ちになれる話が好き

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-04)

「ミス・バイオテック、待たせたね。入ってもらって構わないよ」
 少し間を置いて
「失礼します」
 制服に身を包んだアリス・バイオテックが例の付き人と一緒に校長室に入ってきた。確かに、見晴らし台で会ったあの娘だった。
「では、私はここで」
 そう言うと、校長先生は部屋から出て行った。一緒に話をするのではないのか!?
「こんにちは。先日、見晴らし台でお会いしましたね。私はアリス・バイオテック。改めてよろしくお願いします」
 アリスは、応接セットの正面の席についた。
「ぼ、僕は福島健。よ、よろしくお願いします」
 そう言いながら、目が泳いでいた。
「どうしたの?」
「いや、えーっと、雰囲気が違いますね」
「ああ、ごめんなさい。この制服、まだ慣れなくて。なにかおかしかったかしら」
 そんなことは、どうでも良かった。マジ、超が付くほどドストライクな美人な彼女にこうして正対していることから、浮き足立っていたというのが正直なところだ。
「あの、、、あの付き人の彼も座ってもらっては」
「ああ、マハンのことね。マハンは私の警護人よ。警護するために給料をもらっているのだから、構わないのよ。むしろ、そうしないと雇い主である私の父に叱られることになるわ。それからマハンには厳重な守秘義務が課せられているから、少なくとも今日、この場で話す内容は一切、外には漏れないことになっているから気にしないでね」
 彼が一緒に座ってくれれば、何か緩衝材的な役割を果たしてくれるのではないかと期待したが無理なようだった。
「は、はぁ。そうですか。それで、今日の話って?」
「よろしいかしら、遠まわしな話って私苦手だからごめんなさい。健、あなたにお願いがあって来たの。ストレートに言うわね」
「私のボーイフレンドになってください」
「・・・」
「日本語では彼氏というのかしら」
「は?」
 一瞬、刻が止まった。実際、考える時間を設けたのだろうか、10秒ほど静寂が校長室を包んだ。静寂といっても、校長室にはアンティークの振り子時計があり、周期2秒の長針の振り子が1秒ごとに須臾の時を刻んでいた。僕の頭の中は真っ白で、テレビのエンターテインメント番組の仕込みだったら良い絵が撮れていただろう。
 ようやく、僕は重い口を開いて率直なところを聞いてみた。
「えーっと。ちょっと、どういうことかよくわからないよ」
「ああ、それもそうね。彼氏になってもらう三つの条件を伝えるわ、そうすれば、具体的にイメージしてもらえるかしら、
 一つ目が、生徒会運営委員会の事務局に入ってもらうこと、
 二つ目は、私は三年後にはアメリカに帰国するので、その後はどうなるかわからないということ、
 三つ目は、その間、肉体関係は持たないということ、これだけよ。私は、こういうのあまり詳しくなくて、興味もないし、ごめんなさいね。でも、あなたに対して少なからず好意は持っているし、出来る限りのことはさせてもらうつもりよ。
 それから、もちろんこれは一方的な申し出だから断るのも自由だし、断ったからと言って特に、何かが不利になるわけでもないわ。でも、私は受け入れてくれることを期待しています」
 真っ白になっていた頭の中も、条件を示されて、ようやく思考を取り戻し始めていた。
「はあ、、、、。よくわからないけれど、要は、生徒会の手伝いをすればいいって条件だけで良いのではないの?彼氏とか大げさなこと言わなくても」
「それは、そうなのだけれど、正直に言って、私は恋愛ゲームのようなものには興味はないのよ。だけれど、友だちというものには興味があるの。私は裕福な家に生まれ育って物質的には何不自由なく過ごしてきたのだけれど、いつも親の都合で生活の重要なところを決められてきたし、監視されてきたから、あまり、その、なんていうか、友だちとか良くわからないのよ」
「そうなんだ。でも、それなら、こんな方法を使わなくても、普通に学院生活の中で自然に見つけていけばいいんじゃない」
「私も最初はそう思ったのだけれど、あなたのいう、普通の学院生活ってどういうものかしら。それを私は過ごすことができるのかしら。そう考えると無理そうな気がしてね。友だちを作るにも方法は人それぞれでしょう。これが、私の選んだ方法なの。それに、健には事務局を手伝うだけでなく、側にいてほしいと思ったのよ」
「いや、いろいろな方法があることは否定しないけれど、でも、なんでいきなり僕なんだ。確かに先日見晴らし台で偶然会ったけれど、ほとんど初対面じゃないか」
「偶然?運命の出会いだったと思っているわ」
「本当に?そんな風に運命をとらえるんだ」