月ノ下 狸櫻 のブログ

爽やかで前向きな気持ちになれる話が好き

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-07)

「ああ、脱線して悪いな。まあ、そんな訳で、ネットでちょっと検索しただけで、いろいろ出てくるから、あっちでもそれなりに有名人なんじゃないか。残念なのは、さっきの写真みたいなのはほとんどなくて、固そうな企業PRっぽいページで、素人が撮影した風の写真と違って綺麗だけどエロさが足りないんだよな」
「だから、そういうのはいいって」
「そうか、まあ、あとで、おまえにも転送しといてやるから。話戻すとさ、なんか大企業の令嬢が特別待遇で三年間留学して、違う世界も見て来なってことだろ。せっかくだから友だちもほしいけど、あんまり危険も冒したくない。だから校長先生にも協力してもらって無難なところを見つけたって訳だ。どうせ、そんなところだろ、期待するなって」
「ああ。実は、俺もソリタリー・バイオテック社については調べていた。やはり気になってな。今の話よりもう少し詳しくは調べてはいるが、結論はだいたい同じようなところまでしか行き着かなかった。いろいろな情報を載せているように見えて、多分、計算尽くで、大丈夫なところしか載せてないんだろ。俺たちみたいなSNSにブログ気分で気楽な記事を載せているようなものも無かったし、ましてやアリスの裏情報みたいなものも一切無かったな。会社の裏情報みたいなのは難しくてわからなかったし」
「なんだ、少しは調べてるんじゃないか。で、どうするところなんだ健」
「うん。まあ、よくわからないけれど、受けるか断るかの二者択一なら、受けようかと思うんだ」
「まあ、おまえの性格からしてそうだろうな。三年間事務局奉公すれば、それなりに得られるところもあるかもしれないしな。でも、まあ、あんな可愛いアリスちゃんと一緒に居られるなんてうらやましすぎるぞ、一応、彼氏の肩書きつきじゃ、三年間の間に過ちが起きないともいいきれんしな」
「それでさ、隼人。一緒に入らないか」
「おお、お断りするぜ」
「・・・」
 随分、あっさりと断るもんだ。
「アリスちゃんにお近づきになりたいのは山々なんだが、俺には剣道部があるからな」
 そう、隼人には剣道部があるんだった。僕と隼人は同じ中学で、僕が生徒会長、隼人が剣道部長で部活動委員会でも一緒だった。僕は生徒会長といっても田舎の平凡な中学の若干押し付けられた感のある平凡な生徒会長だったのに比べて、隼人は、そう隼人は中体連の全国大会で準優勝するほどの腕の持ち主だ。おそらく、僕と隼人が学業成績では大きく及ばなくてもこの学院に入学できたのは、この辺が評価されたようだ。ただ、その評価がどの程度だったのか公表されていないが。僕は説得を続けた。
「それが、6日にアリスと別れてから、先生から運営委員会規則と心得とかいろいろもらってな、そこに僕らにとって、なかなか凄い好条件が書いてあるんだ」
「なんだよ、僕らって、もう一緒になるような話じゃないか」
「運営委員会事務局に入ると、一組並みの優遇が一部得られてな。それによると運営委員会の活動は公式の授業カリキュラムとして認められ、部活動どころか授業の時間割ですら運営委員会の活動から優先的に組まれるそうだ。そして、だから、部活動との両立が可能。もっと言えば運営委員会の活動は、その失った分以上のバックアップが得られるとのことだ」
「うーん、よくわからないな」
「簡単に言えば、部活動はおろか授業の時間割ですら、自由に組める、というか運営委員会の活動が一部単位に換算されるうえ、授業並みの個人フォローも得られるらしい」
「それはなかなかの条件だな」
「だろ、だからやってみないか」
「随分熱心に誘うじゃないか」
「まあ、正直、不安と言えば不安なんだ。本来、事務局は一組か二組の連中がやるような仕事だしな。それに、なんで俺なんだという気持ちはまだ残っているんだよ。だから、頼むよ」
「うーん、そうだな。そういう条件なら、まあ断る理由は少ないな。でも、なんだろう、積極的に受ける理由も無いというか」
「いや、そう言われてみて、ますます気持ちが固まった。この話は是非、一緒に受けようじゃないか。どうせ与えられた学院生活の三年間なんだ、どうやって過ごすかは自分たちで決めることだろ。これは天に与えられたチャンスに違いないよ」
「おまえってさ、普段はあんなに優柔不断なのに、こういう時だけは決断早いよな。まあ、それがおまえのいいところなんだけれども」
 隼人はそう言いながら、僕を持ち上げた。
「よし、わかった。そこまで言うなら、俺様も協力してやろうじゃないか。もしかするとアリスちゃんも気移りして、俺の方になびいてくるとも限らないしな。うへへ」
 うへへは、声に出して言うところじゃないだろう。

 

 

犯罪被害者の支援強化

殺人や性犯罪などの被害者や遺族を早い段階から一貫してサポートする「犯罪被害者等支援弁護士制度」の創設を盛り込んだ改正総合法律支援法(参院先議)が、18日の衆院本会議で全会一致で可決、成立した=国会内【時事通信社

 

令和6年4月、犯罪被害者の支援を強化する関連法が成立した。まだまだ不十分な感じもあるが、とても良い方向性の改正と思う。

犯罪は、基本的には加害者が悪であり、被害者はそうではないと考えられるが、事情は複雑だろう。加害者側にも一定の保護が必要とは思うし、そもそも冤罪の類を否定できない以上、一方的に加害者を罰して終わりということでもない。しかし、これまでは被害者側の保護が不十分であるという見解が各方面から示されていた。にも拘わらず、ようやく今日の改正という感じもする。

などと上から目線でコメントしてみたが、そういう自分は何をしてきたのだろうか?あるいは、それ以前に何を知っていたのだろうかと冷静に考えると、漠然と課題意識だけ持って過ごしていた自分の無知さを思い知らさせる。

今回の件をきっかけに、少しネットで調べてみたが、やはり先駆者の方々の活動や思いが沢山綴られている。

私の住んでいる地方でも支援センターがあり、支援活動員の養成なども行っている。これから、少しだけでも意識していきたい。

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-06)

【第2章】 パラダイス学院日本復興委員会
「うーん、意味わからん」
「そうだよな」
 隼人の反応は思ったとおりだった。
「まあ、でも、なんとなくわかったことがある」
「何がだよ」
「要はあれだ。運営委員会の事務局と言えば、役員の下僕みたいなものだろ。まあ、アリスとやらは頭はいいのかもしれないが、手足となって動いてくれる人がほしかった。見知らぬ日本の地で、しかも三年後は帰国することが決まっている。そんな中で、学院生活を無難に楽しもうとすれば人畜無害なおまえみたいなやつを側に置いておくのも悪い選択ではない」
「じゃあ、単に事務局をお願いしますと言えばいいだけだろ、なんでボーイフレンドとか言い出すんだ」
「まあ、リップサービスってやつだろ。単に事務局では本当に下僕みたいなもんだからな。肉体関係も持たず、三年後にはお別れが規程路線のボーイフレンドなんて、都合のいいこじつけだろう」
「三年後にお別れするとは言っていない」
 あえてここで肉体関係なんて言い出す隼人に若干の不愉快さを感じなくもなかったし、そういう意味ではアリスも同じだ。
「じゃあまさか、アメリカまで追いかけていくつもりか。日本犬、ワンワン!」
 隼人は話を飛躍させながら冷やかしてきた。
「馬鹿にするなよ。それに、なんだろう。少なくとも言葉に嘘はないような気がする。そんなに悪気はないだろう」
「おまえ、本気になっちゃったの?いや、どうなんだろうね。少なくもソリタリー・バイオテック社は知ってるよね。いや、無理だって、もう、格が違いすぎるからさ俺らと」
「ソリタリー・バイオテック社?」
「知らないのか」
「おまえ知ってるの?」
「ああ、アメリカでも古株の非上場で世襲制の製薬会社なんだが、先代の社長、つまりアリスの父親の代に遺伝子研究で大当たりしてな、たいぶ儲けたらしい。ただ、新型コロナウイルスワクチンの開発に出遅れて、その責任を取ったのか嫌になったのかわからないが、投げ出したのかのように、突然辞任して、今はアリスの長兄が社長だそうだ。ちなみに、アリスは9人兄弟姉妹の7番目で母親は、三人だったか四人だったかな。細かいところは忘れたが、まあ、そんな感じだ。アメリカでも一流の製薬会社でトップから10本の指、、、には入らないかもしれないが、それに準じる大企業だそうだ。そんな会社のご令嬢ってわけだ。そう考えると特別待遇もよくわかるし、むしろ、よくぞこんな田舎の学院に来てくれたって感じだよな」
「随分詳しいじゃねーか」
「ああ、さっき調べたばかりだからな。いや、入学式のアリスの姿がまぶしくてな、さっきオカズにさせてもらおうと思って画像検索から始めたところだ。ついでに、あそこまで美人なんだから、何かネットに人となりか何か出ていないかと思って調べてみたんだ。そうしたら、出るわ出るわ、、、難しい情報が。はっきり言って英語で書かれているから、ほとんど意味がわからないのだが、自動翻訳機を通すと、多分、製薬会社の取り組みとかイメージアップ戦略か何かかな。家族で微笑ましく地域行事なんかに参加している様子なんか写真付きでアップされているんだ。これなんか見てみろよ、夏のパーティかなんかの写真だけど、ほら、ほとんど水着姿だろ、いい成長してるよな。これは今晩の、、、」
 僕は、ここで咳払いをした。

 

 

東大入学式 総長 式辞

東京大学の入学式が4月12日、日本武道館で開かれ、藤井輝夫総長は式辞を述べました。

 

東京大学(あるいはそれを取り上げた記事など)と言えば、学歴主義や権威主義の象徴のような見方も出来るかもしれません。

しかし、式辞のような公式なメッセージは、政財官学といったそれぞれの中で学を代表するような意味合いを併せ持っていると見ることもできるかもしれません。

今年もインターネットでも公表されている式辞の内容を拝見しました。

 

解決すべき問題の多元性

構造的差別

インターセクショナリティ(交差性:人間の多次元性とそれらの関係性に着目して、その力の社会的な作用を分析する枠組み)

 

といった考え方を端的に結びつけた話は参考になりました。

 

 

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-05)

「信じてもらえないなら構わないわ。でもこの話にはもう一つの面があって、実は健には悪いけれど、いろいろと調べさせてもらったのよ。データを」
「データ?」
「個人情報とでも言うのかな」
「どうやってそんなもの調べられるんだよ」
「実家から学校へちょっと圧力をかけてもらったのよ」
「それって違法なんじゃ」
「もし気分を害したなら謝るわよ。ごめんなさいね」
「そういう問題か」
「好きにして構わないわ」
「・・・」
 いや、話が微妙にかみあっていない気がする。もしかして、やばいやつなんじゃないか。少しはそういう気がしていたが、残り半分は、ほとんど会話をするのが初めでであるにもかかわらず、妙にそのキャッチボールが楽しく、少し話を続けてみたいと思った。
「話変わるけどさ、君、日本語上手だね。幼いころからのバイリンガルなの?」
「Aliceって呼んで頂戴。褒めてもらってありがとう。日本語は、ここ一年くらいしか勉強したことがないわ。難しくて苦労したわよ」
 ここで僕はアリスが、一組1番だったことをようやく思い出した。この学院はトップとボトムの学力差が激しく、クラスが二つ三つ違うと、もう別の学校なのではと思うくらいの差があった。同じなのは、日本の普通の高校生と同じく、一学年の間に16歳になるという生年月日が同じ年度に属しているということくらいしかない。一組の生徒は、ほとんど皆、超高校生級で教室の配置もカリキュラムも指導教員も二組以下と全く別の体制が敷かれていた。特に、トップ9名の招待された留学生は、本国では飛び級で、既に大学や下手をすると大学院クラスの生徒も集めているという噂を聞いたことを思い出した。
「それは凄いね。そもそも、僕たち、普通の高校生と頭のつくりが全く違うんじゃないか。どうすれば、一年で外国語が身に付くのか理解できないよ」
「それは、一年間日本語学習のための専属講師についてもらって、ほぼ一年間日本語漬けの生活を送ったからなんとか普通の会話はできるようになったのよ。でも、その講師が随分澄ました感じの気高い女性だったから、少し口調に癖があるかもしれないし、あまりくだけた表現とかできないのよ。それに、健。さっきから普通、普通って言うけれど、確かに日本の高校生にとっての普通ではないかもしれないけれど、普通って一体何なのかしら。そんなこと気にしなくてよくてよ」
「うーん、そうなんだ。でもやはり、普通っていうのは、何か、そういった、なんだろう、偏差値とか、そういうものじゃなくて、共通の価値観、いや、違うな、なんていえばいいんだろう、同じ判断基準みたいものとでも言うのかな。何か、そんなものをもっていないと話も合わないんじゃないかと思って」
「一般的には、そうだと思うけれど、それは、違うと思うわ。あなたには、まだわかっていないかもしれないけれど、確かにこの学院は様々な国の様々な考え方をもった生徒が集まっているけれど、この学院の校風というか、もっとストレートに言えば、校長先生の価値観に沿った、そういう意味では同じ価値観をもった生徒が集められているのよ。その中でも、健、あなたとは話が合うと思うのよ。どう、こうして話をしていて、少なくとも話はかみ合っていると思わないかしら」
「うーん、そうだな、そう言われてみれば、そういう気もしないわけでもないな。でもさ、話戻るけど、やっぱり、どうして僕なのか納得いかないよ。何か大きな意味での価値観は共通なのかもしれないけれど、別に学院生全員と趣味があうとか、そんな感じでもないよね。というか、まだ気持ちの整理ができないよ」
「ええ、結構よ。おそらくこうなるだろうと予測済みよ。そして、最終的に受けてくれるとも予測しているわ。今日のところは、このくらいにしましょう。良かったら考えてみて。OKのときは、4月11日の放課後に、生徒会運営委員会の組織会があるから、そこに来て頂戴。場所などは先生に聞けばわかるようにしておくわ。一人では不安だったら、お友だちの、何でしたっけ、相馬隼人君、彼も誘ってみて一緒に来て頂戴。彼も受けてくれるだろうと分析しているわ」
 たたみ掛けるように、そういうと、ちょっと間を置いて
「最後に失礼の無いように補足しておくわ。あの日見晴らし台で“偶然”会ったとき、一目惚れしたのよ、健、あなたにね。じゃあ、またね」
「あ、ああ、また」
 キツネにつままれたというのは、こういう感じなのだろうか。そういえばアリスは動物に例えるとキツネという感じもしなくもない。
 この偶然の出会いと奇妙な告白から、僕とアリス・バイオテックとの不思議な交際がはじまった。

 

AIの軍事利用

 外務省のHPによると、2024年3月19日から同月20日にかけて、AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言の第一回年次会合が米国メリーランド大学において行われ、政治宣言の参加国に加え、オブザーバー国が出席したとのこと。我が国からも外務省及び防衛省からなる代表団が出席し、本政治宣言を含め、責任あるAIの軍事利用に関する取組への我が国のコミットメントを改めて表明したとのこと。
 その概要は、以下のとおりであった。
•    AIの軍事利用は、国際人道法上の国家の義務に合致した形で、責任ある人間の指揮命令系統の下で運用し、責任の所在を明らかにする必要がある。
•    各国は、軍事AI能力の開発、配備及び使用の確保のため、当該能力のライフサイクル全体を通じ、関連する各段階で、適切な措置を講じるべき。
•    政治宣言の参加国は、宣言の目的推進のために以下を行う。
    (1)軍事用AI能力の開発、配備、使用の際に本宣言の措置を実施する
    (2)本宣言へのコミットメントを表明し、措置の実施に関する適切な情報を公開する
    (3)軍事AI能力の責任ある合法的な使用確保のため、その他の適切な取組を支援する
    (4)参加国間で継続的に協議する
    (5)措置の効果的な実施を促進、改善し、又は追加的措置を確立する
    (6)国際社会の更なる関与を得る

 

 こういった取り組みは私も重要かつ必要であると思う。
 一方で、なかなか簡単にいかないだろうなとも思う。

 AIについては、軍事利用に限らず、さまざまな分野でその活用方法が話題になっている。軍事的利用については最も代表的な例になる位置づけと思う。

 そもそもAIについては、ここまで開発が進んでいる以上、止められないものと思う。言い方を変えると、表向きにはルールを作って一定の枠ぐみの中で活用していきましょうということはできるかもしれないが、陰に裏に行われる実質的な開発は、もはやだれにも止められないと思う。
 軍事や金融の分野で、秘密裏にAIを開発して、そこから利益を得ている者に対して、どの国のどういった法、あるいは国際法とでもいうべきものが、それを有効に止めさせることができるとはどうしても思えない。
 現実的には、かつての核兵器の開発競争が行われたような、AIの開発競争が行われるのではないだろうか。
 そして、仮に特定の国、あるいは集団、あるいは個人が、他を圧倒するようなAIを俄かに開発することができたとすれば、それは軍事、経済、政治などあらゆるもののバランスを一気に覆すことになるのではないだろうか。
 一方で、私は、俄かに、そのようなことになる可能性は低いのではないかと予想している。それはシンギュラリティの議論と類似のものになるだろう。
 現実的には、AIの開発には各国、企業、技術者が鎬を削って、進歩していくのではないかと予想している。そして、その開発競争から遅れたものは、その影響を緩やかに受けつつ、徐々に力を弱めていくというものだ。
 以上は、私の仮説にすぎない。果たして今後、どのようになっていくのか。私の生きている間くらいは見守っていきたい。

 

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-04)

「ミス・バイオテック、待たせたね。入ってもらって構わないよ」
 少し間を置いて
「失礼します」
 制服に身を包んだアリス・バイオテックが例の付き人と一緒に校長室に入ってきた。確かに、見晴らし台で会ったあの娘だった。
「では、私はここで」
 そう言うと、校長先生は部屋から出て行った。一緒に話をするのではないのか!?
「こんにちは。先日、見晴らし台でお会いしましたね。私はアリス・バイオテック。改めてよろしくお願いします」
 アリスは、応接セットの正面の席についた。
「ぼ、僕は福島健。よ、よろしくお願いします」
 そう言いながら、目が泳いでいた。
「どうしたの?」
「いや、えーっと、雰囲気が違いますね」
「ああ、ごめんなさい。この制服、まだ慣れなくて。なにかおかしかったかしら」
 そんなことは、どうでも良かった。マジ、超が付くほどドストライクな美人な彼女にこうして正対していることから、浮き足立っていたというのが正直なところだ。
「あの、、、あの付き人の彼も座ってもらっては」
「ああ、マハンのことね。マハンは私の警護人よ。警護するために給料をもらっているのだから、構わないのよ。むしろ、そうしないと雇い主である私の父に叱られることになるわ。それからマハンには厳重な守秘義務が課せられているから、少なくとも今日、この場で話す内容は一切、外には漏れないことになっているから気にしないでね」
 彼が一緒に座ってくれれば、何か緩衝材的な役割を果たしてくれるのではないかと期待したが無理なようだった。
「は、はぁ。そうですか。それで、今日の話って?」
「よろしいかしら、遠まわしな話って私苦手だからごめんなさい。健、あなたにお願いがあって来たの。ストレートに言うわね」
「私のボーイフレンドになってください」
「・・・」
「日本語では彼氏というのかしら」
「は?」
 一瞬、刻が止まった。実際、考える時間を設けたのだろうか、10秒ほど静寂が校長室を包んだ。静寂といっても、校長室にはアンティークの振り子時計があり、周期2秒の長針の振り子が1秒ごとに須臾の時を刻んでいた。僕の頭の中は真っ白で、テレビのエンターテインメント番組の仕込みだったら良い絵が撮れていただろう。
 ようやく、僕は重い口を開いて率直なところを聞いてみた。
「えーっと。ちょっと、どういうことかよくわからないよ」
「ああ、それもそうね。彼氏になってもらう三つの条件を伝えるわ、そうすれば、具体的にイメージしてもらえるかしら、
 一つ目が、生徒会運営委員会の事務局に入ってもらうこと、
 二つ目は、私は三年後にはアメリカに帰国するので、その後はどうなるかわからないということ、
 三つ目は、その間、肉体関係は持たないということ、これだけよ。私は、こういうのあまり詳しくなくて、興味もないし、ごめんなさいね。でも、あなたに対して少なからず好意は持っているし、出来る限りのことはさせてもらうつもりよ。
 それから、もちろんこれは一方的な申し出だから断るのも自由だし、断ったからと言って特に、何かが不利になるわけでもないわ。でも、私は受け入れてくれることを期待しています」
 真っ白になっていた頭の中も、条件を示されて、ようやく思考を取り戻し始めていた。
「はあ、、、、。よくわからないけれど、要は、生徒会の手伝いをすればいいって条件だけで良いのではないの?彼氏とか大げさなこと言わなくても」
「それは、そうなのだけれど、正直に言って、私は恋愛ゲームのようなものには興味はないのよ。だけれど、友だちというものには興味があるの。私は裕福な家に生まれ育って物質的には何不自由なく過ごしてきたのだけれど、いつも親の都合で生活の重要なところを決められてきたし、監視されてきたから、あまり、その、なんていうか、友だちとか良くわからないのよ」
「そうなんだ。でも、それなら、こんな方法を使わなくても、普通に学院生活の中で自然に見つけていけばいいんじゃない」
「私も最初はそう思ったのだけれど、あなたのいう、普通の学院生活ってどういうものかしら。それを私は過ごすことができるのかしら。そう考えると無理そうな気がしてね。友だちを作るにも方法は人それぞれでしょう。これが、私の選んだ方法なの。それに、健には事務局を手伝うだけでなく、側にいてほしいと思ったのよ」
「いや、いろいろな方法があることは否定しないけれど、でも、なんでいきなり僕なんだ。確かに先日見晴らし台で偶然会ったけれど、ほとんど初対面じゃないか」
「偶然?運命の出会いだったと思っているわ」
「本当に?そんな風に運命をとらえるんだ」