月ノ下 狸櫻 のブログ

爽やかで前向きな気持ちになれる話が好き

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-03)

 一週間後に入学式を控えていたが、毎日、午前中に行われるガイダンス以外は自由だった。隼人は連日のように、マチに遊びに行こう、出身中学の後輩に気合いを入れに行こうと誘ってきたが断って、寮でボーっと過ごしていた。
 入学式を明後日に控えた4月6日の昼、ガイダンスを終え学食で日替わりランチを食べているときに、生徒一人一人に学校から渡されている連絡用を兼ねたスマホの連絡アプリに着信履歴が残った。
 このスマホはインターネットにも無制限に接続できアプリのインストールや使用時間などに制限はない。そして、このスマホは授業への出欠確認から所在確認、授業料の納入や成績管理、宿題やレポートの提出はもとより、ネットへの接続履歴や果てはメールやSNSへの投稿履歴など全て学校に管理される条件で無償貸与されている。便利ではあるが、常に電源を入れて所持することを義務付けられており、要は生徒を管理するためのものでうっとうしい存在でもあった。多くの生徒は、その管理を嫌い私用スマホの2台持ちをしているようだが、犯罪行為にでも用いない限り、何に使うのも自由ということで、貧乏学生の僕や隼人は学校から貸与されたスマホだけで過ごしている。隼人はこの貸与スマホで早速、エロサイトを閲覧し夜な夜なナニに耽っているが、大丈夫なんだろうか。
 閑話休題

 そこには次のようなことが書かれてあった。
“福島健君。これから、時間があれば、制服に着替えて午後2時に職員室に来られたし。不可能な場合は、理由を添えてその旨お知らせください。磐城”
 磐城とは担任でもあり生徒指導主任でもある先生だ。といってもガイダンスで一回会ったことしかない。何か、俺、悪いことでもしたかと一瞬ドキッとしたが、あの隼人が何のお咎めもないのに、僕が怒られるようなことはしていないと気をとりなおした。時計を見ると、1時45分過ぎを示していた。寮に戻って身嗜みを整えるには時間がギリギリになるため、もとから制服だったので、そのまま職員室に向かおうと考えた。
 デジタルの腕時計が午後2時00分丁度を示したので、職員室のドアをノックした。
「一年八組35番、福島健、磐城先生へ用事があって来ました」
 職員室入り口のドアに張り出されている入室時の声がけのフォーマットを見ながら、大声で言った。
「遅い!30秒遅刻だ!」
 磐城先生が鬼の形相でそこに立っていた。
「す、すみません。えーえっと…」
 何か言い分けでもと考えていたところに磐城先生が続けた。
「いいからこっちへ来なさい」
 そういって、また廊下に出て奥の部屋に向かい始めた。
「校長先生が君に用事があるそうだ」
「は、はい?校長先生が、どんな用事なのでしょうか」
「私も聞いておらん」
 それだけ言い、無口で歩き続けた。校長室の前に立ちドアにノックした磐城先生は
「校長先生、おつれしました」
 とだけ伝えた。
「おお、ご苦労さん。入りたまえ」
 奥から校長先生らしき人の声が聞こえた。校報で写真を見たことのある校長先生だったのだが、実際に会うのは初めてだったため、思ったより小柄な人だというのが第一印象だった。
「それでは、私は失礼します」 磐城先生が校長先生に声をかけると校長先生は、
「うむ」とだけ答えた。
 磐城先生、一緒に入るのではないのか。余計、混乱している私に、校長先生が続けた。
「まあ、そんなところに立っていないで、こちらへ来て座りたまえ」
 校長テーブル前の小ぢんまりした応接セットの下座の席に着いた。
「一年八組35番、福島健です」
 何を言えばよいかわからない私は、職員室への入室同様の自己紹介をした。
「うむ、存じ上げているよ、私は、・・・」
 そういって簡単な自己紹介を始めた。校長先生は伊達先生という。校長先生が一介の生徒に敬語を使うのも何か変な感じだった。そして、本題に入った。
「今日、君にここに来てもらったのは、とある客人に頼まれたからなのだが、私としても悪い話ではないと思ったので協力させていただいた。その客人とは、君と同じ今年の入学生一年一組1番のアリス・バイオテック君なのだが、君と話をしたいとのことでね。その話の内容を私も承知しているし、今日、この場を設けるために校長の立場からいろいろと調べさせてもらった。もし、話が終わった後で、そのことについて不服があれば責任の所在は私にある。だから、その場合は、私に申し立ててくれ。しかし、おそらく今日の話は君も承知してくれるだろうと思っている。繰り返しになるが、悪い話ではない。是非前向きに考えてもらえると私としても嬉しい。何か、質問はあるかね」
「ええっ、え、えーと、、、一体どんな用事なんでしょうか?」
「それは、直接彼女から聞いてくれ」
「彼女、、、アリス・バイオテックって言うんですか?誰なんです?」
 そう言いながら、僕は慌てていた。そう、忘れるわけの無い名前だ。見晴らし台で会って以来、幻想の中の思い人といった感じで、ずっと、誰なんだろう、どんな人なんだろうと焦がれていたのだ。
「会えばわかる」
 校長先生はそっけなく続けた。
「どうして私なのでしょうか」
「それも彼女から聞いてくれ」
「悪い話じゃないって、本当ですか」
「まあ、それは君次第なのだが、私はそう思っている。もし、君が納得できない話になった場合は、私が責任を持って対処しよう」
「そ、そうですか」
「ほかに質問はあるかね」
「え、えーっと、、、いいえ、ありません」
「そうか」
 そういうと、校長先生は席を立って校長室の隣にある校長応接室のドアを自ら開けて応接室の中に向かって声をかけた。