月ノ下 狸櫻 のブログ

爽やかで前向きな気持ちになれる話が好き

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-01)

【第1章】 アリス・バイオテック
 僕は福島健、今年、中学を卒業した。僕と親友の相馬隼人は、後にパラダイス学院と呼ぶことになる帝都電力工業技術研究所付属福島第一高等学院の入学式に臨んでいた。学院と呼んでいるものの、大半の意味合いは普通科の高等学校である。一学年8クラス、1クラス36名のその高校はきわめて明確な学力基準でクラス編成を行い、学籍番号も一年次は入学試験、二年次以降は進級試験の点数順に決められている。僕は八組35番、隼人は八組36番である。つまり、学年最下位である。それでも僕と隼人は、もともとこんなハイレベルな高校に入れると思ってもいなかったため、逆に誇らしい気持ちだった。
 この学院の特徴として、一組のトップ9名は例年、他国から特別に招待された留学生で構成されている。なお、トップ9名が留学生に固定されている(できている)のにはからくりがあったのだが、この説明はここでは省略したい。
 今年の一組1番は、アメリカからの留学生、アリス・バイオテックである。入学式で代表式辞を独特のイントネーションがあるものの、流暢な日本語で読んだ彼女は典型的な才色兼備の美少女で、華奢な身体にブロンズの髪、青い瞳を持ち、おまけに実家はアメリカの製薬会社とのことで金まで持っている。一見すると、冷たい氷の美女といった感じもしないわけではない。多くの生徒は驚嘆と羨望の眼差しでその式辞を読む姿を見ていたが、鼻の下を伸ばした男子がいたかどうか、マスクのせいではっきりとしなかった。ただ、あまりにも凡人離れしたその風貌からどちらかと言えば高嶺の花で男子の人気の的の女子というような位置付けにはならなかったようだ。一般的には、、、

 入学式の晩、寮の自室に戻り、夕食後のフリータイムにゆったりしていた隼人は(ちなみに寮の部屋も男女別学籍順に割り当てられ、二組以下は二人部屋のため僕と隼人はルームメイトでもある)早速、持ち前のエロトークを始めた。
「おい、健。あのアリスっての、スゲー美人だな、―P―、―P―て、くれないかな」
 多くの人は心の中に性的な衝動を隠し持っているのだろうが、隼人は、それを隠そうとしない。
「あいかわらずだな」
「いや君は、そう思わないのかね。まあ、―P―てもらうのは、無理にしても、何かお近づきになる方法はないかなぁ」
「お近づきになりたいの?」
「そりゃそうだろ、あんなの」
「そりゃ話が早い」
「へ?」
 僕は滅多なことでは冗談も言わないタイプの人間であることを隼人は十分理解している。
「なんだよ、お近づきになる方法を知っているとでもいうのか?」
「ああ。それにアリスは、一応、俺のガールフレンド、ということらしい」
「・・・・・」
「おい。健。おまえ、入学早々頭おかしくなったのか?大丈夫か?まあそうだ、俺たち今ここにいること自体、奇跡みたいなものだからな。滅多に冗談をいうやつではないと思っていたが、そんなことを言いたくなる気持ちもわからなくもないぞ」
 ちなみに僕の名前は健と書いて「けん」と読む。ここまでは、特に変わった名前ではないが、姓は福島である。つまり、ふくしまけんである。親が洒落でつけたとしか思えない。実際、一度確認したことがあるが、やはりそういうことであった。実の子の名前を洒落でつけるなんてふざけた親だ。いや、全国の福島健さん、ごめんなさい。
「まあ、俄かに信じられないのはわかるが、そういう自分自身、夢か現実か信じられない気持ちなんだ」
「夢落ちってやつか、新年度早々、それも悪くないな。では夢の続きを聞かせてもらおうか」
「実は、・・・」
 こういっての僕は、ここ一週間程の間に起こったことを隼人に話始めた。一週間程といっても、アリスとのかかわりは2回だけのことで、あわせても30分に満たない時間にすぎない。