月ノ下 狸櫻 のブログ

爽やかで前向きな気持ちになれる話が好き

パラダイス学院留学生委員長アリス(60-09)

「私は、アリス・バイオテックアメリカから来ました。製薬会社の娘です。担当の教務委員会は生物学。専門は遺伝子工学です。多様な生物の調和が地球環境を良くしていくと信じています。これから生徒会第一学年運営委員会の委員長を務めます。よろしくお願いします」
 1番、アリス・バイオテック。思ったより、あっさりした自己紹介だった。
 2番の胡沢民は、背が高く、端正な顔立ちの中国人男性だ。
「胡沢民。中国は甘粛省から来た。教務委員会は政治経済。ソフトパワーを専門とすることになっているが、出国の際に課せられたもので、もともと興味があった訳ではない。親は小さな物流業者で日本企業とも取引が多く自然に日本語や日本文化に親しんで育った。親は共産党に入党を申請している。もし、親が共産党員で私の成績であれば国内の高等中学に進学していたであろうが、私はそうでなくて良かったと思っている。世界の貧富の差や人権問題は大きな課題だ。この地で見識を広めたい」
 3番は、ピエール・デザグリエ。金髪に緩やかな天然パーマがかかった白人男性だが、見た目はどことなく頼りなさげで親しみやすそうな風情ではある。ただ専門は難しそうでとらえどころがなさそうだ。
「ピエール・デザグリエです。教務委員会は物理学です。原子核物理が専門になっていますが福島県にあったような核分裂ではなく、親が核融合の技術者でフランスから青森県の施設で共同研究をするために来日したのでついてきました。核融合の技術で人類のエネルギー問題を解決できれば良いと思いますが、私は今は純粋な理論物理学に興味があります。そもそも、宇宙は何で成り立っているのかとか、時間の流れはどういうことだろうかということもありますが、最近はそれを認識する人間の意識とは物理的にはどう説明できるのかなって思っています。よろしくお願いします」
 4番は、台湾から来た、いかにも優等生といった風情のチェンだ。
「陳美玲(チェン・メイリン)と申します。よろしくお願いします。教務委員会の担当は地理学で、専門は地政学です。親は地方公務員です。胡さんを前に言うのは憚りますが、台湾にとって地政学は死活課題だと思っています。もちろん台湾のためにだけでなく、世界平和のために地政学をしっかりと学びたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします」
 名前を出された胡沢民は特に発言を気にした様子はなかった。
 5番は彫が深く、はっきりした顔立ちのインド女性だ。その妖艶な雰囲気は、制服を着ていなければ高校生とは思われないだろう。
「アーシャ・クマールです。インドから来ました。教務委員会は情報工学です。専門事項は、AIとしていますが、メタバースからナッジまで情報工学の分野を幅広くマスターしたいと思います。親は教師です。よろしくお願いします」
 6番は、ロシアから来た男性で一番背が高く、無差別級のボクシング選手かと思うようながっちりした体つきだ。
ニキータ・アレクサンドロヴィチ・ドロズドフだ。よろしくお願い申し上げる。教務委員会は保健となっているが、学びたいのは総合医療だ。この学院は高校でありながら大学レベルの医学理論も学べると聞いて留学を決意した。日本の生活に慣れたいと思い早めに来日したのだが、来日後にプッキンがウクライナに侵攻し大変なことになってしまった。プッキンの判断は間違いであると断ずるが、国内の事情ではそれを支持せざるを得ない雰囲気もあった。親は中央政府の下級官吏で大きな意味では親プッキン派に属していたといえる。無事帰国できるのか、親はどうなるのか、そしてウクライナの人々のことを考えると、今は、複雑な状況で胸が苦しい。ただ、私は政治を語るつもりも学ぶつもりもない。一人の人間として総合医療を学び、医療の最前線に立ち、人々の役に立ちたい。また、一人の医者が一人の患者を総体的に診療できる総合医療を学ぶための仕組みを学び、世界に広めたい」
 7番のイギリス人女性は、小柄で9人の中では一番幼く見える。日本語をまだ上手く話せないようだ。
「私の名前はシャルロット・ソフィア・スミスです。教務委員会は数学です。専門は確率論です。専門の専門は保険です。イギリスは保険が進んでいます。親は金融機関で保険商品を査定しています。保険会社には世界中の情報が集まってきます。私は数学を通して世界を勉強したいです。私は数学が得意です。日本語は、もう一年くらいしか勉強していません。日本語が得意なら私はもっと順位が高いです。得意な数学と不得意な日本語を勉強したいです」
 8番の韓国人男性は、流行のK-popアイドルといった風情のキムだ。
「私はキム・ソジュン。教務委員会は芸術を当てられているが、あまり納得していない。はっきり言って、アートとか芸術作品など詳しくはない。私の専門はe-sportsだ。それも制度とか環境などではなく、一人のアスリートだ。なぜ、e-sportsが芸術なのか意味がわからない。日本に専門科目がないのはわかるが、体育か情報工学か、いずれかを期待していた。全韓e-sports大会での優勝経験もある。一番関心のあるのは脳科学というか、人間の集中力とは何だろうかということだ。いわゆるゾーンに入るというやつだ。ゾーンに入るのは容易いことではないが、訓練次第で可能と思う。また、ゾーンに入ることは快感だが、ゾーンに入ったもの同志の戦いはさらに快感だ。純粋にゾーンを極めたい。しかし、韓国では敵をつくり過ぎた。同じ過ちは繰り返さないようにしたいと思う。しかし、いざ戦いが始まればそうもいかないだろう。この委員会の中でも我こそはと思う者は声をかけてほしい。事務局の隼人は、どうだろう、よかったら近く一戦交えてくれると嬉しい」
 隼人がe-sportsって何だとでも言いかけそうな顔でもしていたところを察して、アリスが口をはさんだ。
「次、続けてください」
 9番は、ベトナムから来た小麦色の肌でさわやかで健康そうなエスニカルな南国美女といった感じのチャンだ。
「皆さん、こんにちは。私はベトナムから来たチャン・チー・アンと申します。どうぞ、よろしくお願いします。私の父は商人で、商売の都合三年前から日本に移り住んでいます。ベトナムではこのような場合、父が単身赴任することが多いのですが、私は日本の文化に興味があったので中学に入るときから東京に住んでいました。ですから、おそらくこの9人の中では一番、日本滞在歴が長いのではないかと思います。私の担当教務委員会は家庭科です。高校の単元にあわせているので、家庭科となっていますがキムさんほど専門とのずれはないと思います。私の一番興味のある事項は共同体形成のあり方です。共同体といっても特に共産党とは関係ありません。どちらかといえば、建築学や都市計画と自治法令、地方自治政策といったあたりになるかなと思います。ですから、家庭科が専門のわりに料理はそれほど得意ではありません。もちろん、人並みには出来ますので、何かの機会があったときにはお声がけくださいね。月並みですが、フォーを使った料理や春巻きなどは自信がありますよ。パーティも大好きですので、幹事役も喜んでいたします。今は世の中、感染症対策も大変ですがリスク管理をしっかりやれば、出来ることも多いと思いますのでよろしくお願いします」